コラム

「痩せるなんて消費カロリーが摂取カロリーを上回ればいいだけ」という人のメンタル

公開 管理栄養士 なつき

こんにちは。世界一優しいダイエットコーチのさちです。

ダイエットの話題になると、必ず現れる意見があります。「痩せるなんて簡単。消費カロリーが摂取カロリーを上回ればいいだけ」。

先に言っておくと、この主張は物理として正しいです。エネルギー収支がマイナスなら体重は減ります。熱力学に例外はありません。私は管理栄養士なので、ここに異論はまったくありません。

問題は、正しいことと役に立つことが別物だという点です。

「西に行けばいいだけ」

東京から大阪に行きたい人に「西に進めばいいだけ」と言うのを想像してください。方角として完全に正しい。そして、何の役にも立たない。知りたいのは新幹線の乗り場と、財布の中身と、途中で挫折しない方法です。

カロリー収支の話は、この「西に進めばいいだけ」です。ゴールの定義であって、道順ではありません。そして病院時代から数えるとのべ3000人以上の食事管理に携わってきた私の実感では、道順で困っている人に方角を繰り返し教えても、たどり着く人は増えません。

では何が道をふさいでいるのか

「いいだけ」と言えるためには、食欲が意志で自由に操作できる必要があります。ここが科学的に崩れています。

たとえば2019年にアメリカのNIHが行った実験では、施設に住み込んだ20人に、カロリーも栄養素もそろえた2種類の食事を「好きなだけ食べていい」条件で出したところ、超加工食品中心の期間だけ全員が平均して1日約500kcal多く食べました。本人たちに食べすぎた自覚はほとんどありません。環境が変わるだけで、収支は勝手に動くんです。

減量後の体も収支に逆らってきます。体重を落とすと食欲を強めるホルモンの変化が起き、それが1年後も続いていたという報告があります。リバウンドは根性の欠如ではなく、体の仕様が起こしています。

さらに言うと「意志力は使うと減る資源だ」という有名な説そのものが、2016年の23の研究室による大規模な再検証で効果を確認できませんでした。意志の強さで説明できる範囲は、私たちが思っているよりずっと狭いんです。

「いいだけ」と言う側のメンタル

タイトルの回収をします。あの言葉を言う人を、私は責める気になれません。あれは多くの場合、その人自身が「方角さえ分かれば歩ける人」だからです。習慣が安定していて、食欲を乱す要因が少なく、カロリー計算がそのまま実行に変換できるタイプ。実在します。その人にとっては本当に「いいだけ」なんです。

ただ、自分に効いた方角の指差しを、道がふさがっている人への処方箋だと思ってしまうと、届く言葉が「あなたの努力不足」になります。そして皮肉なことに、恥や自責は過食を増やす方向に働くことが研究で繰り返し示されています。正しい物理で人を殴ると、体重は増えるんです。

まとめ

カロリー収支は、ゴールの定義としては100%正しく、方法としては0点です。方法の中身は、食欲を乱す環境を片づけること、続く仕組みを作ること、失敗した日に自分を殴らないこと。私のコーチングでやっているのは、方角の説教ではなく道順の設計です。

「いいだけ」で痩せられなかったあなたは、怠けていたのではなく、道順を教わっていなかっただけですよ。

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