本当の本当の栄養学

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日本人に小麦は合わない?

グルテンで語られがちな不調の正体

公開 管理栄養士 なつき

連載を始めます。「体に悪いって聞いたけど、本当のところどうなの?」を、論文まで遡って検分するシリーズです。型はいつも同じで、結論、数字と出典、弱点も正直に、一言まとめ、参考文献。初回なのでルールをひとつ宣言しておきます。研究が更新されたら書き直しますし、間違いがあれば一行で訂正します。指摘は歓迎です。

第1回は、いちばんよく聞かれるこれから。「日本人に小麦って合わないんですよね?」

結論から書きます。「日本人」という主語で小麦が合わないという証拠は、今のところありません。ただし「小麦が本当に合わない人」は確かに存在します。割合でいうと、おおよそ100人に1人未満です。そして、パンを食べるとなんとなく調子が悪いという人の不調は、グルテン以外の犯人で説明できるケースが多いことが、近年の実験で分かってきました。

エビデンスの強さ:中〜高(二重盲検の再負荷試験が複数あるが、対象は「自分はグルテンに弱い」と申告した人に限られる)

本当に合わない人は何%いるのか

小麦が医学的に「合わない」状態は、主に3つあります。

セリアック病。グルテンで小腸の粘膜が傷つく自己免疫の病気です。欧米では人口の約1%、日本では推定0.05%程度とされます。島根県で2,055名を調べた2020年の調査では0.19%という報告もあります。まれですが、ゼロではありません。

小麦アレルギー。こちらは免疫の即時反応で、日本では「食べたあとに運動すると症状が出る」タイプ(運動誘発型)が大人でも知られています。

そして「グルテン過敏症(非セリアックグルテン過敏症)」と呼ばれる、検査では異常が出ないのに小麦で不調が出るとされる状態。ここが今日の主役です。

「グルテンのせい」を疑った実験

ノルウェーの研究チームが2018年に、面白い実験をしています(Skodje et al., Gastroenterology)。

「自分はグルテンに弱い」と感じてグルテンフリー生活をしている59人(セリアック病は検査で除外済み)に、グルテン入り、フルクタン入り、どちらも入っていない偽物、の3種類のミューズリーバーを、本人にも研究者にも中身が分からない状態で順番に食べてもらいました。フルクタンというのは小麦に含まれる発酵性の糖質で、玉ねぎやにんにくにも入っています。

結果、お腹の症状が一番強く出たのはフルクタンでした。そしてグルテンは、偽物と差がありませんでした。

つまり「グルテンに弱い」と自覚している人たちの不調の少なくとも一部は、グルテンというたんぱく質ではなく、小麦に同居している糖質のしわざだった、ということです。犯人を取り違えていた可能性があります。

もうひとつ。2024年には「グルテンが入っていると告げられること」自体の効果を調べた実験があり、実際に入っているかどうかより「入っていると思って食べたか」のほうが症状を左右しました。思い込みを責めているのではありません。予期による症状は本物の症状です。ただ、対策が「小麦を一生断つ」ではなくなる、という話です。

弱点も正直に

この分野の限界も書いておきます。

まず、上の実験群の対象は「自己申告でグルテンに弱い人」であって、日本人の一般集団ではありません。日本人を対象にした質の高い再負荷試験は、私の知る限りまだありません。「日本人に合わない証拠がない」は「合わないことが否定された」とは違います。

次に、フルクタンで症状が出る人にとっては、犯人がグルテンだろうと糖質だろうと「小麦製品でお腹を壊す」体感は事実です。犯人の名前が変わるだけで、つらさは変わりません。その場合は小麦を減らすことが実際に役立ちます。

最後に「誰にとって・どの量で」。セリアック病と小麦アレルギーの人にとって、小麦は量の問題ではなく医療の問題です。疑わしい症状(食後の繰り返す腹痛、皮膚症状、運動後の体調急変など)がある人は、自己判断のグルテンフリーではなく、先に医療機関で検査を受けてください。グルテンフリーを始めてしまうと検査が正確に出なくなります。

じゃあ「パンをやめたら痩せた」は何なのか

グルテンフリーにして体調が良くなった、痩せた、という体験談はたくさんあります。多くの場合、そこで減っているのはグルテンではなく、菓子パン、ラーメン、パスタ、ビールです。つまり精製された炭水化物と脂質と、ついでの食べすぎが一緒に減っています。それは小麦の毒性の証明ではなく、単に食事の質が上がった結果です。

だから私の提案は「日本人だから小麦を断つ」ではなく、こうです。パンで調子が悪い自覚があるなら、まず菓子パンを主食パンに替えてみる。それでも不調が続くなら、犯人捜しは自己流にせず検査へ。

一言まとめ

小麦が合わないのは「日本人」ではなく「一部の人」。パンで不調の犯人はグルテン以外のことも多い。断つ前に、選び方と検査。

参考文献

  • Skodje, G. I., et al. (2018). Fructan, rather than gluten, induces symptoms in patients with self-reported non-celiac gluten sensitivity. Gastroenterology, 154(3), 529-539. doi:10.1053/j.gastro.2017.10.040
  • Fukunaga, M., et al. (2018). Celiac disease in non-clinical populations of Japan. Journal of Gastroenterology, 53(2), 208-214. doi:10.1007/s00535-017-1339-9
  • Fukunaga, M., et al. (2020). Serological screening for celiac disease in adults in Japan: Shimane CoHRE study. JGH Open, 4(4), 558-560. doi:10.1002/jgh3.12334
  • de Graaf, M. C. G., et al. (2024). The effect of expectancy versus actual gluten intake on gastrointestinal and extra-intestinal symptoms in non-coeliac gluten sensitivity. The Lancet Gastroenterology & Hepatology, 9(2), 110-123. doi:10.1016/S2468-1253(23)00317-5

研究が更新されたら書き直します。指摘は歓迎です。

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